図面に基づいて明細書を補正する際に、如何に新規事項の追加を回避できるか

リリース日:2025-12-25

出典:未知

要約:明細書の図面は、明細書の補正根拠になるが、図面に基づいて明細書の補正を行う際には、明細書と特許請求の範囲とに記載の内容及び図面により確定できる内容を一つの全体として総合的に判断して、出願当初の明細書及び特許請求の範囲の記載範囲を超えないように、補正後の技術的内容と、出願当初の技術的内容とを一致させる必要がある。

出願書類に対する補正可能な範囲は、他の国に比べて、中国は厳しく制限されている。

特許法第33条の規定によれば、出願人は特許出願書類に対して補正を行うことができるものの、出願当初の出願書類及び特許請求の範囲に記載の範囲を超えてはいけない。

「特許審査指南(2010)」の第二部分第八章第5.2.1.1節において、出願当初の明細書と特許請求の範囲の記載範囲に対する規定が記載されている。即ち、出願当初の明細書と特許請求の範囲の記載範囲は、出願当初の明細書と特許請求の範囲の文言記載による内容と、図面により直接かつ異議なく確定できる内容とを含む。

したがって、図面に示されている内容は、間違いなく出願書類の補正根拠とすることができる。しかしながら、図面に基づいて行なう補正が出願当初の記載範囲を超えているか否かについての判断は、焦点となっている。

本稿では、具体的な事例を紹介することにより、図面に基づいて出願書類を補正する際に、新規事項の追加であるか否の判断及びその回避策について、筆者の考えと理解を述べたい。

一. 事例の基本情報
(1)事例1
対象特許は、2006年8月30日に登録された「後部リヤディレーラ」という名称の発明特許である。出願日は1994年2月3日であり、優先権日は1993年2月3日であり、特許番号はZL02127848.2であり、特許権者は株式会社シマノである。当該特許は、株式会社シマノが中国国家知識産権局に出願した「後部リヤディレーラのブラケット」の発明特許から分割された分割出願である。親出願の優先権日は1993年2月3日であり、公開日は1994年12月7日であり、出願番号は94102612.4であった。

出願当初の明細書において、第2頁及び第3頁では、「第1連結手段と第2連結手段がほぼ円形のボルト孔の形状を構成する」と記載されている。第4頁では、「ブラケット8の一端に連結する第1円形ボルト孔8aとブラケット8の他端に連結する第2円形ボルト孔8b」が記載されている。第5頁と第7頁では、「ボルト孔8a」または「ボルト孔8b」とが記載されている。第7頁では、「ブラケット8の上のボルト孔8aと8bは様々の形式の構造によって代替できる」と記載されている。出願当初の図3及び図5を見れば明らかに分かるように、第1と第2の連結手段8aと8bは基本的に円形である。

これに従って、出願人は分割出願を行う際に補正を行い、その補正内容として、クレーム1、3、6に記載の「丸いボルト孔」、「円形ボルト孔」、または「ボルト孔」をまとめて「円形孔」に補正した。

上記の補正に対し、寧波賽冠車業有限公司(以下は寧波賽冠と略称する)は、二回にわたり「新規事項の追加」を理由に、中国知識産権局復審委員会に無効審判を提出した。

復審委員会の見解は下記通りである。「円形孔は「丸いボルト穴」、「円形ボルト穴」の上位概念であり、ボルト穴に比べてその技術的な意味も異なる。図面では、8aと8bが円形に見えているものの、図面は、発明を直感的且つイメージ的に理解させ、発明に対して解釈を行う役割をする。出願当初の図面では、8aと8bが円形に見え、これは「丸いボルト孔」、「円形のボルト穴」または「ボルト穴」の形を、図面上で概略的に示すと理解すべきである。図面で示された孔が円形であるからと言って、「円形孔」と「丸いボルト孔」、「円形のボルト孔」または「ボルト穴」とが技術的に同じ意味を有すると理解してはいけない。したがって、「丸いボルト穴」、「円形のボルト穴」または「ボルト穴」を、「円形孔」に補正することは、出願当初の記載範囲を超え、特許法第33条の規定を満たさない」。

復審委員会は全部無効の審決を下した。出願人はその決定に不服し、北京市第一中級裁判所に行政訴訟を提起したが、一審判決では特許復審委員会の審決を維持する判決を下した。出願人は一審判決に不服し、北京市高級裁判所に上訴したが、二審判決では一審判決及び復審委員会の審決を維持する判決を下した。出願人は二審判決に不服し、最高裁判所に再審の申立を提出した。

最高裁判所は公開裁判を行い、口頭審理の際に出願人は下記のことを主張した。即ち、出願当初の図面3、図5では、第1及び第2連結手段がほぼ円形孔であることがはっきり示されており、明細書の第7頁でもボルト孔が様々な形の構造により代替できるとの記載があるため、8aと8bはボルト孔に限られない。ボルト孔とは、「ホルトが通すための孔」であり、「ねじ山が形成されている孔」ではない。対象特許において、「円形孔」と「円形のボルト孔」は構造および機能的な面で何らかの違いもない。したがって、「丸いボルト孔」、「円形のボルト孔」、「ボルト孔」を「円形孔」に補正することは、出願当初の記載範囲を超えていない。

これに対して、最高裁判所の見解は以下の通りである。「出願当初の記載範囲において、8aと8bは実質上二つの技術的特徴で限定されている。一つは円形孔であり、もう一つはボルトを通らせることである。出願人は、クレーム1~3において「丸いボルト孔」、「円形のボルト孔」、「ボルト孔」を「円形孔」に補正し、「ボルトを通らせる」との内容を削除した。また、クレーム1、3のほかの部分において、8aと8bがボルトを通らせるとの技術的内容が記載されていない。機械分野において、円形孔は、スタッド等その他の連結部品を通らせることができる。当業者にとって、「円形孔」と「円形のボルト孔」は技術的に違う意味を有する。出願人の上述の補正は、出願当初の内容から確定できる内容とは言えないため、クレーム1、3に対する補正は新規事項である。クレーム6は、付加的な技術的特徴により8bは連結ボルトを通らせる円形孔であることを明確に限定したため、このような補正は当業者にとって、8bにより見た技術情報と出願当初の出願書類が公開した技術情報との違いを思わせることはないため、新規事項ではない」。

(2)事例2
対象特許は、出願日が2003年3月14日であり、発明の名称は「精密な旋盤刃物台」であり、出願番号は03111166.1であり、出願人は大連経済技術開発区鑫光数控機械有限公司である。

審査段階において当該特許を拒絶し、出願人は拒絶査定不服審判を提出すると同時に、以下のような出願当初の図面に基づいて補正を行った。

即ち、出願人は、クレーム1に対して、以下の特徴を追加した。

特徴1:バネ板4の形状は三角形であり、サイズの大きい一端はハウジングに連結され、他端は浮いている。
特徴2:刃物台は羽板上で磁歪棒を離れる側に設置されている。
特徴3:バネ板の形状は三角形である。

復審委員会は審理を経て、以下の審決を下した。「出願人は、主にクレーム1に、「バネ板4の形状は三角形である」、「サイズの大きい一端はハウジング1に連結され、他端は浮いている」、「刃物台6は羽板4上で磁歪棒3を離れる側に設置されている」との特徴を追加した。出願当初の明細書第2頁第5段落において、「バネ板の形状は厚さが同じまたは厚さが異なる三角形である」と明記されているため、クレームにおいてバネ板の形状を三角形に限定することは特許法第33条の規定を満たす。出願当初の明細書第2頁第6段落において、バネ板4の固定側と磁歪棒3の頂点に対し、刃物台6とバイト5がバネ板4における位置が異なる場合、バイト5の変位量と磁歪棒3の伸縮変形量との関係を示した。また、図面を見れば、図1と図2において、バネ板4の幅の広い側はハウジング1に固定され、バネ板4の幅の小さい中部が磁歪棒3の頂点と活性的に接触し、バネ板4の幅が最も小さい側が自由に浮いており、刃物台6は磁歪棒と対面するバネ板のもう一つの側に位置している、と明確に示した。図5~図8において、バネ板4とハウジング1の連結位置を変更しただけであり、バネ板4のてこ式設置構造は変わっていない。従って、明細書の文言記載と図面(特に図1~図4)を合わせて見ると、バネ板の固定端(図面のサイズの大きい側)がハウジングに固定され、他端は自由な状態であり(浮いている)、磁歪棒の頂点とバネ板の一側面と活性的に接触して支持端を構成し、刃物台は磁歪棒の対面側のバネ板の別の片側に位置している。したがって、出願人による補正は、出願当初の文言記載及び図面から、直接且つ異議なく導くことができ、出願当初の範囲を超えておらず、特許法第33条の規定を満たす。

二. 事例の分析
上記の事例1と事例2は、いずれも図面を根拠にクレームを補正したが、新規事項の追加であるか否かの判断結果において、全く異なる結論になった。

筆者は、このような違う結論に導いた理由は、以下の通りであると思う。

図面は明細書の重要な構成部分であり、明細書の文言記載と必然として関連性があるものである。図面に基づいて補正を行う場合、明細書の文言記載と図面を結合して一つの全体として理解すべきであり、図面に示されているものを孤立して判断してはいけない。孤立して図面から見られる特徴を補正の根拠とする場合、その特徴に関する技術内容が明細書に記載の内容と異なることがしばしばあるため、新規事項の追加として判断し易い。

事例1において、図面によれば、第1連結手段8aと第2連結手段8bとの形状が円形であることが明らかであるものの、明細書の文言記載によれば、第1連結手段8aと第2連結手段8bは円形形状のみならず、ボルトを通らせると記載されてる。従って、出願人はクレーム1、3における「丸いボルト孔」、「円形のボルト孔」及び「ボルト孔」を「円形孔」に補正し、「ボルトを通らせる」との技術的特徴を削除した。これにより、補正後のクレームに記載の技術的特徴は、出願当初の技術的内容と一致しないため、補正内容が新規事項の追加に該当すると判断した。その反面、クレーム6は、技術特徴を追加することにより、8bをボルトを通らせる円形孔に明確に限定したため、補正後のクレームに記載の技術的特徴は、出願当初の記載内容と一致し、新規事項の追加ではないと判断した。

事例2において、明細書でバネ板は同じ厚さ又は異なる厚さの三角形であるとの文言記載があり、且つ異なる実施例により刃物台の構造を示した。なお、図面においてその断面図を持ってその構造を明確に示した。即ち、バネ板の固定端(図で示したサイズの大きい端)はハウジングに連結され、他端は自由端(浮いている状態)であり、磁歪棒の頂点とバネ板の一つの側面と活性的に接触して支持端を構成し、刃物台は磁歪棒の対面側でバネ板のもう一側に位置する。これに基づき、出願人はクレームにおける特徴に対して補正を行い、「バネ板4の形状は三角形」であり、「サイズの大きい一端はハウジング1に連結され、他端は浮いており」、「刃物台6は羽板4上で磁歪棒3を離れる側に設置されている」という特徴を追加した。補正後のクレームに記載されている技術的特徴は出願当初の明細書に記載の技術的内容と一致し、新規事項に該当せず、出願当初の記載範囲を超えないと判断した。

上記の内容から分かるように、図面を根拠に補正を行う際に、出願当初の出願書類に記載されている文言内容と、図面から確定できる内容とを一つの全体として総合的に判断すべきであり、出願書類に記載の文言内容と、図面により確定する内容とが一致しないことを避けるように注意すべきである。 

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