要約:通用技術用語を使って技術的特徴を表現する場合、当該技術的特徴をどのように解釈且つ理解するかによって、特許の有効性に影響を与える。通用技術用語で記述された技術的特徴は、当該通用技術用語の自ら有する性質、構造を含むと理解すべきである。通用技術用語で技術的特徴を表現する場合、当該技術用語自体が当業者に熟知されているとは言っても、当該技術的特徴の応用が公知常識であるとは限らない。公知の部品を利用して特定の技術課題を解決することを始めて提案した場合、通用技術用語で当該公知部品を表現することは、権利人にとってある程度公開の度合いを制御する効果が得られると思われる。
特許に対する実体審査、無効審判請求の審査等の特許性を判断する時に、明細書及び特許請求の範囲に記載の技術的特徴について解釈する必要がある。このような解釈は、特許性の決め手でもある。
実務において、様々な用語を用いて技術的特徴を説明している。中国専利法では、出願人の定義した用語の使用を禁止していないものの、当該技術分野の通用技術用語を使用することが一般的である。『審査指南』(2010年)第二部分第二章第3.2.2節で規定されたように、「特許請求の範囲の保護範囲は、その用語の意味に基づいて理解しなければならない。通常、特許請求の範囲における文言は当該技術分野における通常の意味で理解しなければならない」。
以下のことを仮定して見よう。即ち、ある発明の創作点が当該分野の公知部品を利用する点にある場合、明細書及び特許請求の範囲において当該通用技術用語を使って関連する技術的特徴を説明したと仮定した場合、当外特許の有効性を判断する時に、特に明細書の公開の度合いと進歩性の判断において、当該通用技術用語をいかに理解すべきかが問題になる。本稿は、一つの代表的な事例を通じてこの問題について説明を行う。
一.事例の概要
本事例は、2016年度の十大無効審判事件の一つであり、「新型カメラガイドレール」を発明の名称とする実用新案(以下は本件専利と称す。)の無効審判事件である。
(一)事件の基本情報
無効審判請求日:2016年3月2日
無効審判審決番号:29889
発明の名称:新型カメラガイドレール
特許番号:201320578735.3
出願日:2014年11月21日
権利者:中山大山撮影機材有限公司
無効審判請求人:恵州市拉図撮影器材有限公司
無効理由:特許法第22条第3項、第26条第3号及び第4号の違反
証拠1:CN202522832U
審決:本件専利の有効を維持する
(二)本件専利
本件専利の図1 本件専利の図3
本件専利の背景技術の記載:カメラが撮影をするため平穏に移動する必要があり、そのためにカメラガイドレールを使う必要がある。カメラガイドレールを使用する時、カメラがガイドレール上のスライドブロックに搭載され、スライドブロックがガイドレール上をスライドすることによりカメラが所定のルートに従って移動する。しかしながら、従来技術では、カメラがレールを円滑にスライドすることができず、穏やかに移動することができず、撮影された画面が揺れて不安定する問題が生じる。
本件専利の新型カメラガイドレール(クレーム1)は、カメラ固定用の雲台付きスライドブロック10、2本の相互平行するガイドバー20、及び二つのスライドバー固定座30を含み、二つのスライドバーの両端がそれぞれ二つのスライドバー固定座に固定され、スライドブロックがその下に設けられているスライド構造を通じて二つのスライドバーに挟まれて、二つのスライドバーをスライドするものであって、二つのスライドバー固定座のそれぞれに一つの回転軸50が設置され、前記回転軸にタイミングプーリ60が設置され、二つのスライドバーの間にスライドバーと平行するタイミングベルト70が設置され、前記タイミングベルトの一端がスライドブロックの一側に固定され、他端が二つの回転軸のタイミングプーリを順序に乗り越えてスライドブロックの他側に固定され、一つの回転軸の上端のヘッドから伸びた固定座の上部に、一つのフライホイール80が取り付けられている。
(三)証拠1
証拠1の図1
証拠1の解決しようとする課題は、従来技術では手動操作でスライドブロックを移動させることによって、カメラの移動を実現するものの、その移動の精度が低く、長距離の移動が難しく、円滑にスライドできず、長時間の操作で疲れる等の問題を解決するために、カメラのガイドレール装置をモーター式等に改良する、ことにある。
証拠1で示されたガイドレールにおいて、ハンドル1はネジでガイドレール2の一端に設置されたタイミングプーリ6の回転軸に固定され、ハンドルによってタイミングプーリを転動させる。これによりタイミングベルト4が移動されて、スライドブロック3がガイドレール2をスライドする。ガイドレール2の他端のタイミングプーリ6にモーターフレーム5が設置される。モーターフレーム5の中にモーターが取り付けられ、モーターがタイミングプーリの回転を駆動し、タイミングベルトが移動して、スライドブロック3がガイドレール2をスライドする。証拠1のハンドルは単独で使用しても良く、モーターと共に使用しても可能である。
(四)主な争点
両方当事者の主な争点は、フライホイールという用語を如何に解釈するかにある。
無効請求人の主張は以下の通りである。即ち、本件専利のクレーム1では、フライホイールが慣性及び緩衝の作用を有することを限定しておらず、その外形及び明細書の記載から、フライホールがロッキングホイールの作用を有することが分かる。更にフライホールがロッキングホイールと同じ構造を有することが分かる。更に、証拠1にはハンドルが公開され、ロッキングホイールとして作用するフライホイールと同じものである。
上記の主張に対して、権利者の主張は以下の通りである。即ち、フライホイールは当該分野の専門用語であり、フライホイールとロッキングホイールはまったく異なる機械部品であり、異なる意味を有し、その技術的効果もまったく異なり、証拠1におけるハンドルとフライホイールはまったく異なるものである。
(五)復審委員会の審決の概要
1.明細書の公開内容が十分であるか否かについて
無効請求人は、本願明細書ではフライホイールの直径のサイズ、質量等のデータを明確に記載していないため、その公開が不十分であると主張した。
上記の主張に対して、合議体は下記の見解を下した。
第一、「フライホイール」は通用技術用語であり、回転の慣性が大きいプレート状の部品を示しており、エネルギーを保存する機能をしている。即ち、フライホイールという部品とその機能は、当業者にとって明確なものであり、且つ本願明細書の記載内容と一致している。
第二、本件専利が解決しようとする課題は、従来のガイドレール装置ではスライドブロックがガイドレールの溝に嵌められるという方式を採用することで、スライドする時に渋りが生じ、スムーズに移動できず、撮影された画面が揺れて不安定する問題を解決することにある。この課題に対し、本件専利は、タイミングベルトでスライドブロックを両端に設置された回転軸、タイミングプーリと連動させるようにし、スライドブロックが移動する時に回転軸とタイミングプーリが同時に回転することができ、これと同時にその中の一つの回転軸に設置されたフライホイールを利用して、スライドブロックがガイドバーの上をスライドする際に生じた揺れを緩和、軽減させ、その結果、スライドブロックの雲台に搭載されたカメラがスムーズに移動して、撮影された画面の品質と効果を確保することができる。上記の案を基づき、本件専利明細書の第【0022】-【0025】段落では、フライホイールの設置位置、作動原理、及びそれがもたらす効果等が詳しく記載されている。従って、従来技術の課題を解決するために、当業者は明細書で記載された具体的な構造に基づいて、製品の具体的な仕様、予期する慣性効果等を考慮した上、フライホイールの質量を確定し、その質量のデータに基づいて材料、フライホイールの厚さ、直径及び中空構造採用の与否等を決めることができる。これらのデータは、当業者が実際の需要に基づいて明確に決めることができるものであり、本件専利の明細書で記された、カメラがガイドレール上をスムーズに移動することを保障する課題さえ解決できれば良い。
2.クレーム1の進歩性について
合議体は、証拠1に比べて、本件専利のクレーム1の主な相違点は、フライホイールに関する特徴であると指摘した。
合議体は、下記の見方を示した。
第一、「フライホイール」は通用技術用語であり、それが示しているのは、回転の慣性が非常に大きいプレート状の部品というものであり、エネルギー保存装置の働きをしている。したがって、当業者にとって「フライホイール」という部品は、慣性によるポテンシャルエネルギーの保存装置であり、質量が大きく、大きな慣性量を生み出すものを示す。
第二、本件専利の趣旨は、フライホイールの回転慣性が大きいという性能を利用し、タイミングプーリとタイミングベルトと協働させてスライドブロックがガイドバー上で移動する際に生じた揺れを緩和、軽減させ、それにより雲台上に搭載されたカメラがスムーズに移動し、画像の品質を確保することである。それに対し、証拠1でハンドルを設置した目的は、ハンドルの回転によりタイミングプーリの回転を実現し、それによりタイミングベルト4がスライドするように牽引し、最終的にスライドブロックがガイドレール上でスライドすることを実現する。証拠1の趣旨は、手動で押すという方法に代わって、手動でハンドルを回すかモーターで駆動するという方式を取ることである。ハンドルは駆動部品に属し、その強度が保障されれば、質量に対する要求はない。ハンドルを回すことでスライドブロックの移動を牽引する方式は手動で押す方式よりスライドブロックの移動に伴う渋りが軽減されるものの、手動による駆動という性質は変わっていないため、安定性や、平滑さに欠けている問題は依然として存在している。
第三、フライホイールは、円形状を有するため、ロッキングホイール、即ちハンドルの機能も同時に有している。しかしながら、この機能は、本件専利で果たしてフライホイールの機能の全てではなく、当業者が通常に理解しているフライホイールの機能でもない。最も重要なのは、当該機能は本件専利が従来技術の問題を解決するためにフライホイールを導入した目的ではない。本件専利は、質量慣性の大きいプレート状のフライホイールを設置することによって、フライホイールが回転する過程でエネルギーを蓄積し回転の慣性で、スライドブロックのスライド時の停滞やスピードの変化で生じた不安定さを緩和、軽減させる。更に、スライドブロックを駆動する外部の力が消えた時、フライホイールが蓄積したエネルギーを放出し、スライドブロックが当該エネルギーに駆動されて、慣性で一定の距離をスライドすることができる。
最後に、別の視点で検討して見ると、証拠1のハンドルはオペレーション部品に当たるため、当業者が証拠1の技術案を理解した後、慣用手段で考えれば、操作性の向上を図るためにできるだけハンドルを軽くすることが一般的である。これも、質量の慣性を大きくする本件専利のフライホイールの創作とは相反するものである。
二.事例の分析
復審委員会の分析及び上記の事例から、下記の経験を導くことができると思う。
1.通用技術用語により記述された技術的特徴は、当該通用技術用語の自ら持っている構造や特徴を含めていると理解すべきである。
合議体が審査を行う際に、明細書が十分に公開されているか否かの判断、及び進歩性の判断においても、当該分野の通用技術用語である「フライホイール」の文言自体の構造及び物理的特性に基づいて判断を行った。それだけでなく、合議体は、通用技術用語である「フライホイール」の「質量が大きい」という性質を用いて、証拠1の発想と相反することを指摘した。
これで分かるように、明細書において「フライホイール」の構造、質量について詳しく説明しておらず、クレーム1でも「質量が大きい、プレート状」である文言の限定がないものの、当該通用技術用語の有する「質量が大きい」、「プレート状」という特徴を保護範囲に限定し、証拠1との相違点を明らかにした。
2.通用技術用語は当業者にとって熟知されているものの、当該通用技術用語により限定されている技術的特徴が特定な発明における応用が公知常識であるとは限らない。
「フライホイール」は、当業者にとって熟知されているものの、カメラガイドレール装置の移動の不安定問題を解決するために、フライホイールを使うことは当該技術分野の公知技術ではなく、それを証明できる証拠もない。
逆に、フライホイールは、特定の意味(質量が大きく、回転慣性が大きいプレート状の部品)と機能(エネルギーを蓄積する)を有しており、本件専利のカメラガイドレール装置に応用されたことで、カメラがスムーズにスライドできるという技術的効果を得ることができ、これによって本件専利の進歩性が認められた。
3.特定の技術課題を解決するために、公知部品を初めて応用した発明の場合、通用技術用語で当該公知部品を記述することにより、権利者のノーハウをキープする効果が得られると思われる。
本件専利において、初めてフライホイールを利用してカメラ移動の安定性問題を解決することを提案し、明細書ではフライホイールを採用したカメラガイドレールの構造を公開した。これにより、明細書は十分に公開されていると思われる。フライホイールの質量、材料、厚さ、直径等のデータは、当該発明のノーハウであり、当業者が実施する時にその需要に合わせて選択できるものとして、権利者のノーハウをキープすることができる。
仮に、本件専利の出願日の前に、フライホイールを用いてカメラの移動の安定性問題を解決する従来技術が存在するとすれば、本件専利の貢献は、フライホイールの構造の改善を通じて、更なる安定性の向上を図るものであり、この場合、フライホイールの質量、および材料、厚さ、直径等の具体的なデータを公開しなければならないと思う。
本件専利は、従来技術の状況を十分に把握し、且つ通用技術用語で技術的特徴を記述することにより、明細書の公開の度合いを合理的な範囲にコントロールすることができたと思われえる。その結果、特許法で求められる「明細書を十分に公開しなければならない」との公開要件を満たして、公開代価として保護を与える特許法の趣旨を違反せず、特許の有効性を守ると同時に、競合会社のコピー行為をある程度制御することができ、将来の改良技術の特許戦略のために、ある程度の空間を確保し、一挙多得の方法とも言える。